「琉依。」



そう呟いた声は想像よりもずっと



大人びていた。



「…茜……」



今まで聞いたことのないような先輩の動揺した声。



こんな声…聞きたくなかった。



もう分かったようなものだから。



この人は





「私のこと覚えててくれたのね?」
「……」
「そっちの可愛らしい仔を紹介してもらえる?」



あたしを指差す。



ドクンと心臓が高鳴った。



「…別に関係ねぇだろ。」
「あら、そう?…ちょっと二人きりにしてほしいんだけど…ダメかしら?」



嫌。



そうあたしが言うのよりも早く



先輩の口が開いた。



「…わりぃ葵。ちょっと家に先に入っててくれ。」
「…分かった。」



先輩の申し訳なさそうな瞳を見たら、断れなくなってしまった。



スッと女の人の隣を歩くと、ほのかにバラの香りがした。