『緑の闘燃志瞳』を持つ[備前長船(びぜん おさふね)]は19歳。
大学2年生だが、書道の師範でもある。
実家の一部屋を改造し、子供達のために書道教室を開いている。
その日も作務衣姿で、子供達に習字の指導をしていたが…
「せんせー!
畳の上に墨汁こぼしちゃったー!」
「せぇんせえ…
タカシ君が邪魔をして字が書けませぇん…」
毎回、こんな感じだ。
しかし子供好きな長船にとって、このぐらいのトラブルは慣れたものだった。
「はいはい、ちょっと待ってなさいよ。
順番に見て行くからね。
…っと。
この字は最後、こんな感じでハネるとカッコ良く見えるよ」
ピュイィィィィ…
「っ!!………」
一瞬、頭を貫いて行った痛覚に、思わず手を止めて顔をしかめる長船。
「せんせー、どうしたの?」
怪訝そうな顔で長船を見つめる教え子。
ポタ…
筆先からは添削用の赤い墨汁が、雫となって半紙に広がった。
「せんせー!!」
「!!」
長船は我に返り、
「ちょっと、みんな!
ゴメンな!
先生、ちょっと体調悪いから、今日はココまで。
また来週な!」
全ての教え子が帰った後、
「俺を呼んでる…
行かなくては…」
長船は急いで雪駄を履き、作務衣のまま玄関を飛び出して行った。
隣家のオジサンが、自宅の玄関前に水を撒いていた。
走り去る長船を見送りながら一言。
「おい、オサちゃん!
雪駄のまま走ると転ぶぞ!」


