「清治」

 低く出された弓香の声に、俺は一瞬固まる。
 成都に引き続き、俺まで怒鳴られると思っていたからだ。
 
「嫌な思いさせてごめんね。あたし、清治がなっちゃんのこと好きなの知ってるから、なっちゃんが羨ましかった」

「弓香……?」

「あんたって、鈍感よね。なっちゃん、追いかけなくていいの? 伏兵がいるかも、って、あたし言ったじゃない」

「いや、でも……お前……」

 弓香が俯いた瞬間。
 何か――涙が零れるのを、見てしまった。

「あたしの手作りチョコレート、なっちゃんと二人で食べてよね」

 弓香の気持ちに今頃気付いた俺は、相当酷い男だろう。
 それでも、弓香の気持ちに答えることは出来ない。
 俺の気持ちは決まっているから。

 親友でいたいと思う気持ちは、もう、封印しよう。

 ――期待して、いいよな。

 弓香の気持ちに気付いて、弓香の邪魔をした成都。
 子供っぽいやり方だけど、それが成都の本当の気持ちなんだって、思ってもいいよな。

「さっさと行きなさいよ」

「弓香、ありがとう」

 無理矢理だったけど俺に笑顔を向けた弓香を教室に残して、俺は走りだした。