頬を伝う雨なんて気にしていられない。
9回裏、ツーアウト満塁、点差は──1。

『4番ショート、中岡くん』

アナウンスで流れたのは愛しい人の名前。

「しゃあっす!!」

ベンチから声援が響く。
彼に全てを託してぎゅっと目をつぶってる人もいる。

私はなにもできなかった。
祈ることも叫ぶこともできずに、じっと彼を見つめていた。

そのとき、彼の声が聞こえた気がした。


「オレが打つから、名前くらい呼んでよ」


ずっと前に言われたこと。
信じていれば、彼は打ってくれる。
だから、呼ぼう。


「っ、打て!コウタぁーっ!」


例え喉が張り裂けそうでも、彼に聞こえてなくても、呼ぼう。

彼の名前を、私の全てをかけて。