沢原くんは、何も言わなかった。



私が事情を話すのを、待っててくれていた。



「私、彼氏に、フラれちゃって。だけど、まだ……」


心の整理がつかない……。


私が泣きながら、なんとかそこまで言うと、「そうか」と彼は静かに答えた。



ただ、それだけ。



沢原くんが言ったのは、ただ、それだけの言葉だったんだけれども。



何だか、その言葉に安心してしまって、私はわんわん泣いた。
 


沢原くんは、ずっと黙っていた。



どしゃ降りの雨にかき消されて、私の泣く声も、リョウへの思いも、どこへも届きはしなかった。



ただ、教室の中で、ただひとり。



沢原くんだけは、そんな私を受け止めてくれていた。


ずっと黙って、受け止めてくれていた。