「なんだ、そりゃ」



群集のひとりがそう言った。



「数学で0点とっちゃったからさ。千尋ちゃんに勉強教わってるんだ」



と、沢原くんがそう言うと、みんなの目が一斉にこっちに向いた。



沢原くんは、立ち上がり、いつものように、机を私の机の横にくっつけてきた。


クラスのみんなは、私に好奇の目を向けている。



中には、何を勘違いしてか、ニヤついている男の子もいた。



「先生、お願いします」




沢原くんは深々とあたまを下げた。



「なんか、ふたり、お似合いじゃね?」



「じゃ、私たちオジャマしたら悪いから、帰るね」



「つきあってんの? お前ら」



なんて、皆口々に言いたいことを言っている。



だけど。



その中のひとりが、言ってくれた。



……言ってはいけないことを、言ってくれた。



「駄目よ。香田さんには、大学生の彼氏がいるんだから」



その瞬間、私の体は凍りついた。



鋭いつららのようなもので、ハートを貫かれたような感覚を覚えた。