「朝、家でメシ食う時間なくてさ。ギリギリまで寝ていたいから」



「あはは、なんだよ、それ」



「腹が減っては戦ができぬ」



「戦って、何の戦だよっ!」



「何って、決まってんじゃん。勉強」




彼は真顔で冗談を言う。



「ばぁか」




また、周りからツッコまれてる。



沢原くんのやることはいつも奇怪で、人の目をひく。


だけれども、彼は陽気で、ビジュアルも悪くないもんだから、男の子にも女の子にもモテているようだ。



そんな彼に、私も目をひかれているものの、まだひとことも口を利いたことがない。



話しかけるタイミングが難しくて。



人気者の沢原くんは、私なんかに興味もなさそうで。


私はいつも、遠目で見ているばかりだった。



すると、まじまじと彼を凝視している視線に気づいてか、



「ん。おはよ、香田さん」


と、不意に私に声をかけてくれた。
 


私は、ハッとして、



「……おはよ」



と、突然のことに小さな声でしか返事ができなかった。



沢原くん、私の名前、知ってたんだ……。



なぜか、ハートがドギマギしていた。