前も見ないで走ったら、

黒い人影にぶつかった。


びっくりしてあたしはのけ反るように尻餅をついた。



「大丈夫ですかあおい様…」



しかし聞こえたのは優しくて品のある声で


端正な藤咲さんの顔が、あたしを見下ろしていた。


出来ることなら彼に抱き着きたかった。



「どうされました…?」

涙目なあたしに気付いた藤咲さんはしゃがみ、目線を合わせ、不審そうに見据えた。


「…藤咲さん……」


あたしは近くの藤咲さんの腕の服を手のひらで握った。



「藤咲さんどうしようっ……」



それしかいえなかった。