あおいは首を振った。


「みんながいるから大丈夫!」


お父さんはまるで眩しいものを見るかのような表情だ。


「…美栄子、お金を出来る限り引き出して来たから」


低くこっそりとお父さんはお母さんに耳打ちしたが、はっきり聞こえていた。


お母さんは一瞬怯んだような目をしたがすぐに伏せ、頷いた。


「お父さん…ダメだよ!お母さん!」


言葉が飛び出した。



「あおい」

お母さんは優しくあたしを見た。

「気にしないで。言われるがまま全財産を明け渡すつもりはないわ」


顔が熱くなった。


胸に何かが込み上げて来た。


「飛行機代はちゃんとあるわ。いつか日本に帰るために」


「………ダメだよ…お金は大事にしなさいってお母さん言ってたじゃない…!」


「それとこれとは話が別だよあおい」

お父さんが言った。

「あおいは誘拐されたくないだろう?」


「……っ」


あおいはダイニングを出た。


心の中で、何度も何度も繰り返し叫んだ。



誘拐犯のばか!


松永さんだったら
松永さんのばか!


ばか!最低!酷い!大っ嫌い!