「それで色々といざこざがあったのですよ。松永は追い出された。お嬢様の命令で執事を辞めた。松永はお金もなく日本に帰る事ができず…」


藤咲さんは目を伏せた。

同僚の痛々しい姿から目を背けるように。


「私は、彼がいつか復讐するだろうと思っていました。松永は酷く恨んでいましたから」


あおいは胸が痛んだ。


そんなことがあったの?

そんな影を抱えていたの?


恨んでいるのに、どうして…


「どうして松永さんはあたしを救おうとしたの?どうしてあんなこと…」

言いかけて藤咲さんの目をみたあたしは恥ずかしくなって逸らした。


「正直な気持ちで向かったら、すぐに松永は疑われるでしょう」



「……」


そうか。


そういうことか。


また嘘。


また騙された。


「私の予想が正しければ、松永は再びあおい様の前に現れる。あおい様、自分がお嬢様ということを松永に話しましたか?」


あおいは青ざめて、頷いた。


藤咲さんは顔を顰めるんじゃないかとちらりと見たが、驚くほど、余裕に微笑んでいた。


「松永…私の思い通りです」


その笑みは、とても頼れるものに感じたんだ。