庭に流れる小川をはさんだ向こうに、筒型の、白い小さな塔みたいな建物がある。
中に螺旋階段があって、その所々に名前がついた扉がある。
まさか、あたしがここに来るとは思わなかった。
いわゆる
平野家で働く家政婦さんや庭師さんが泊まる寮。
そして
藤咲さんが立ち止まった扉。
そこには“平野家執事 藤咲”との表札がある。
藤咲さんは鍵を取り出し、扉を開けた。
「どうぞあおい様。狭苦しい所かもしれませんが」
脇に下がり畏まる。
「あの…お、お邪魔します」
いやにドキドキした。
あおいはちょこっとお辞儀して、そそくさと部屋に踏み入れた。

