「あおい様を救って頂いたことは礼をする。しかし無断で屋敷の侵入をしたことは咎めます」


あたしの両肩の手に、少しだけ力が篭った。



松永さんはにいと笑った。


そして傍の窓をぐいと全開にする。



「お前、磔け執事の藤咲だろう」



それだけ言って、松永さんは飛び降りた。


松永さん…?



はっとして、あおいは藤咲さんの方に振り向いた。

距離が近いことを忘れ、間近に藤咲さんの顔が見え、あおいは赤面した。

藤咲さんはじっと窓の奥を見据えたままだった。

松永さんよりも、綺麗な顔だと思った。



「あおい様」


見据えたまま、変わらぬ険しい表情で、藤咲さんは呼んだ。


「は、はい」


ゆっくりと藤咲さんから顔を逸らしながらあおいは答えた。


「あの悲鳴はあおい様のお母様のものでした」



「…えっ?」


心臓がうめいた。


「あおい様…廊下は何かと危険ですから、場所を移しましょう」