「あおい様っ…!」



すぐ後ろで声がした。


振り向くと、息を切らした藤咲さんが立っていた。


とても顔を顰ている。



はっとしてあおいは松永から身体を引き離そうとした。しかし、松永さんは閉じ込めるようにあたしを離さない。


「ま…松永さん…?」



松永さんはあたしをみて微笑んでから、藤咲さんの方を見た。


「あなたのお嬢様がとても怯えていますよ」



「……」



「そんな顔しても、遅すぎるよ、執事さん」



「……」



「あの…離して、松永さん…藤咲さんは大丈夫だから」

もごもごとあおいは言った。


「大丈夫かい?この男はあなたよりも悲鳴を気にしました。こんな無責任な執事、僕が許しませ…」



そのとき、ものすごい速さの何かが松永さんの顔を掠めた。


その拍子に緩んだ松永さんの腕を感じた直後、別の手があたしの肩を掴み、松永さんから引き離れたかとおもうと、そのまま背後から、守るように抱き留められた。



「…ふ、藤咲さん」



藤咲さんはあたしの両肩を掴んでいる。

背中越しに藤咲さんの体温を感じる。




松永さんを掠めたのは、藤咲さんの拳だった。