「日本人のメイドか…珍しいな」
みつあみで地味な服装のあたしは、どう見たってこの屋敷のお嬢様には見えないと思う。
「あなたは…」
小さい声であおいはたずねた。
「松永 紡郎(つむろう)。庶民街に住んでる。君は?」
「…平野あおいです」
一瞬、松永さんの黒目が大きくなった。そして、顔をほころばせる。
「平野って、君がお嬢様なの?!」
「…一応」
「もったいないなぁ、お洒落すればいいのに」
松永さんはそっとあたしのみつあみを掴んだ。
また心臓が跳ね上がる。
「てか、もう静かになってるみたいだな」
みつあみに触れたまま松永さんは呟き、そしてあおいに向かって微笑んだ。
「貴族街ではしょっちゅう悲鳴が聞こえてくるよ。高い花瓶を割ったりとか、ご氏族が行方不明だとかさ。お金持ちって大変そうだね」
まるで何も知らないあたしを見透かし、教えてくれている様だ。
不思議…。
あおいがそんな表情をしていたらしく、松永さんは慌てて付け足した。
「ほら、この屋敷に平野様って表札がついたのは最近だったからさ」
あおいの脳裏に一つだけ、疑惑が浮かんだ。

