「お母さん」
「ん?」
夕食の時間、あおいは手をつけぬまま、お母さんに聞いた。
「あたし、日本の学校に…一日でいいから戻りたいんだけど」
輝かしいディナーに視線を落としていたお母さんは、あたしを見た。
「生活に馴れないのね?まだそんなこと考えて」
「……」
あおいは視線を落とした。
「お母さんは日本は嫌い。あおい一人で行けるのならいいわよ」
「ひ…一人?そんなの不安過ぎるよお母さん」
「あっそうよ、藤咲さんがいるじゃない。藤咲さんならついてってくれるわ」
あおいはおもいっきり顔をしかめた。
「やだ」
「あおい、また我が儘言って」
「あたし言ったもん。執事なんて要らないって!お母さんが勝手に執事なんか付けて!お母さんの方が我が儘じゃない!全部決め付けて!」
あおいは声を上げた。
お母さんは眉を潜める。
「あお…」
「もういい。ごちそうさま」
あおいは席を立った。
真っ白な頭の中のまま、自分の部屋に駆け込んだ。
お母さんなんか大っ嫌い。
あたしの気持ち考えないで。
いくらお母さんの夢でも、ほんとはあたしまでこんな生活しなくたっていいんだ。
だからと言って、あたし一人日本で暮らすなんてこと…。
おばあちゃん家は遠くて学校に通えないもの。
歯がゆさに、あたしはベッドの布団に顔をうずめた。

