聞き間違えるはずがない。間違いない。



池野君だ。


池野くんの声だ。



その時、あおいは錯覚を覚えた。


あたしは美並高校に通っている女子高生だ。


地味で無口なだけの、脇役な女の子、平野あおいだ。



なにか言わなきゃ
なにか言わなきゃ…


あおいは口をパクパクさせた。
心臓が高鳴る。全身でドキドキしてる。熱い。



〔平野、フランスにいるんだって~?〕


気さくな池野君の声色がする。

懐かしい。


分かりゃしないのに、あおいはケータイを添えながら頷いていた。


〔返事しろよ〕


「あっ…はい!」


慌てて言うと、受話器から笑い声がした。


池野くんが笑っている。いつも毎日、当たり前のようにあたしのなかで聞こえていた笑い声。


〔前から思ってたんだけど平野って面白いよな!〕

「えっ?」


真っ赤になりながらきょとんとした。



〔平野ってさ、一年の時からぼーっとしてるんだかせっかちなのか分かんなくてさ〕


「そ…そう?」


〔でさ、平野、金持ちのお嬢様になったんだろ?〕


池野くんは急に声を低くした。


「…う、うん」


〔俺に恵んでよ小遣いなくて死にそうなんだよ〕

冗談まじりに囁く。