『なんだそんなこと』
綾は笑った。あおいは目をパチクリさせた。
『だって執事さん大人でしょ?彼女だっているんじゃない?それにあおい、執事があおいの世話するのは当たり前なの。仕事なの。ドキドキしちゃいけないよあおい』
「そんなこと分かってるけど…あたし……」
チクリと胸が痛んだ。藤咲さんが、あたしが階段で落ちそうになったのを支えてくれて…スエット用意してくれて…あたしの学校のこと聞いてくれて……でもそれはみんな仕事なわけで。
あたしだって、一応女の子だもん……
つと受話器から、離れた綾の声がした。誰かと話しているらしい。
「綾?」
〔…あっごめん、あおい、あのさ、あの人がいるから代わるよ!〕
「え?…あ…あの人?」
あたしは訳が分からなくて慌てた。
「代わるって誰?綾?ちょっと待っ…」
〔平野?〕
受話器から聞こえた声に、あおいは硬直した。

