雨だ。


段々とドシャ降りになってゆく。



「どうしよ!」


慌ててスエットにあるはずのフードを被ろうとして背に手を伸ばしたが、虚しく空振りして、自分がスエットじゃないことを思い出した。


そうだった。ショッピングに行くから、ちょっとだけお洒落なワンピース着てるんだった!


初日から汚しちゃうなんて。


こんなあたしにはもったいなかったんだよ。


その時、


頭上で雨が布に当たるような音がして上を見ると、


藤咲さんがいつの間にか傘を差していた。



「え…?傘…」



「当然です。執事として…しかし」


執事は顔をしかめた。


「私のしたことが、鞄から傘を取り出すのに少々遅れました。あおい様を濡らしてしまった」



「ううん…ありがとう」

あおいは恥ずかしさで藤咲さんをまともに見れなかった。


執事として、当然――。



そんなこと、わかりきってる筈なのにね。


ばかだなあたし。


藤咲さんがあんな真剣な顔してる。


微笑み以外の表情を見たのはこれで二つめ。



「では行きましょう?あおい様」


藤咲さんはすっと手を差し延べる。


「…はい」


あおいは藤咲さんの手を握った。