そして藤咲さんは静かな街角にあるベンチに連れていってくれた。
「あの…藤咲さんってフランス育ち?」
藤咲さんはにこやかに微笑み、どうでしょうねと答えた。
…藤咲さん。日本では手を繋ぐことは、好きな人と以外滅多にしないんだよ。
だからあたし、すごいドキドキしてる。
嬉しいよ。嬉しいけど、でも…
「どうしてはぐらかすの?」
ベンチに座るあおいは、傍に立つ藤咲さんに言った。
「それくらい答えたって…」
「そうですか?」
藤咲さんは表情を変えない。何も言わなかった。
どうして?
単なる秘密主義?
何か言えない秘密があるの?
それとも…藤咲さんは執事という仕事としてあたしに付き合っているだけだから、答えたくないの…?
「あたしは、藤咲さんのこと知りたいよ」
思わず言ってしまい、はっとしてあおいは付け足した。
「よ、よく分からないひとにお世話になるのって、気が引けるんじゃないかって…!」
すると藤咲さんは、
藤咲の顔色から、初めて笑みが消えた。

