その日は、お母さんと初めてフランスのショッピングモールに出掛けた。
外出だからスエットを着ることは出来ないから、あたしは藤咲さんに薦められたワンピースを着た。地味な藍色だけど、馴れないお洒落はドキドキした。
そして、もちろん藤咲はあたしのボディーガード。
最初は乗り気じゃなかった。呑気に買い物だなんて。
だけど、フランスは日本と違う、別世界みたい。
オシャレだし、みちゆく人達がみんな綺麗に見えて。
お母さんはバッグやネックレスやらを買うのに夢中で、家政婦さん達は慌てて後を追う。
「あおい様は、どこにも行かれないのです?」
藤咲が首を傾げた。
「あたし、こういう風景見てるので十分だから…」
馴れない雰囲気に、あおいは神経を尖らせていた。
時に小さい子供が、外国人が珍しいのか、あたしを指差したりした。
いろんな人がいる。
あおいは周りを気にして、人と当たってしまった。
「あっすいません」
「おい」
低い声が、そんな風に聞こえた。
驚いて見上げると、しかめっつらの若い男だった。
ひどく機嫌が悪い。
あ、そうか、すいませんって言葉、通じないんだ!
「あ、えーと、ソーリー…?」

