次の日の朝。
リビングに甘い匂いが漂っていた。
「…よっ」
ぱんっとあおいがフライパンをかえすと、こがね色のホットケーキがふわりと舞った。
「ま、おいしそうね!あおい様は料理がお上手なのね」
隣で朝食のスクランブルエッグをつくる家政婦さんが、その様子に感心したように言った。
「ううん、あたしホットケーキしか作れないよ」
あおいは余分に作ったホットケーキを皿に乗せ、ラップを掛けた。
「それは…?」
「…藤咲さんの差し入れなの。あたし失礼なことしたから」
家政婦さんは目をぱちくりさせた。
「あら藤咲執事に?そんな気を遣わなくったって…」
「あたしがそうしたいんです」
あおいはにこりとした。
なんでこんなに楽しいんだろ。
そんな気分で藤咲へのホットケーキをナプキンで包み込む。
だからあおいは気付かなかった。
家政婦さんが笑っていなかった事に。

