「ほら、とてもよくお似合いですよ」
貴族住宅街の中を歩きながら、コートを羽織ったあおいに、執事は言った。
「あの…」
あおいは少し動揺した。
だってこのコートは、あおいの好きな白で、過剰な飾りもないシンプルなデザインで…
「こんなことまで、ありがとうございます」
あおいは思わずぺこりと頭を下げた。
「あおい様、お気を遣わずに…」
執事は苦笑した。
「私の仕事ですから。当然のことなのですよ」
「…当然?」
「ええ。私、執事の仕事は、仕えるご氏族様のお世話ですから。お腹を空かされたらケーキと紅茶を…ご氏族様のご命令があれば何でもいたします」
「命令しなかったら?」
思い切って聞いてみた。
「いえ…」執事は軽く微笑んだ。「あなたの場合は、あなたのお母様が面倒を見るようにとご指令頂いております。なので、あおい様のご命令がなくても、お母様のご指令がありますから、あおい様から離れるわけにはいきません」
は、離れるわけにはいきませんって?
お母さんなに執事に指令してんの!
「…じゃあ、あなたは、氏族の世話係じゃなくて、あたしの世話係って…」
「お気に召さないと言う顔ですね」
う…やっぱりあたしの独り言を聞いてたって思っていいの?
でも相変わらず…執事は得に、怒ったり落ち込んだりするそぶりを見せない。
“執事なんか要らない”
あたしそう言ったもん。

