一方、先に行くといってあの場を離れたクラウンはしばらく行ってから壁に寄り掛かると溜息をついた。その額には脂汗が流れ、顔は青ざめている。王宮に入ってから感じていた悪寒はかなりひどくなっていた。

(あの男…)

そうだ。あの時から、あの男に会った時から酷くなったんだ。頭ががんがんと痛み、本能がこれでもかというほど警鐘を鳴らしているのだ。

意識がふと遠くなり、ずるずるとその場に座り込んだ。その時、

「大丈夫ですか?!」

若い女性の声がした。


のろのろと首を巡らせば自分と同じような年頃の少女が駆け寄ってきていた。その服装に見覚えがあり、記憶を辿る。

「…技巧の民さんやっけ?」

「はい。サラと申します。って大丈夫ですか?顔真っ青ですよ?」

覗き込んでくる蒼い瞳は心底の心配で揺れている。

「ん〜。サラちゃんの目ってきれーやなぁ」

いきなりのクラウンの言葉にキョトンとするサラ。

「菫かなあ、ちょっと青が強い感じの」

熱で頭がおかしくなったのかと思ったサラを誰も責められまい。クラウンとしてはつい独り言漏れただけである。

「とにかく、ここを離れましょう。私の部屋に案内します」

そう言って、サラはクラウンに肩を貸す。