小鳥たちにせがまれた俺は仕方なく気だるい体を動かして寝室を出て台所へ向かい、すぐにコップと皿を手にして窓際へと戻ってきた。


 窓際にあるお気に入りのテーブル上に持ってきた物を置き椅子に座ると、大樹にとまっていたはずの小鳥達は、とっくに男の右側、窓口に用意された皿の周りに集まっていた。


 鳥達にパンをちぎって皿に置きながら、自分も朝食にパンを食べ始めた。


 街並みを眺めながら朝食、とゆっくり過ごしていると部屋のドアが開いた。


「おはようございます。そろそろ出発の準備をしませんと」


 振り向くとそこには、黒いズボンに白いシャツ、その上に黒い上衣を羽織り、身なりを整えた長身の男が立っていた。

 窓際に座る、青年とも少年とも見える年端若い外見のこの部屋のあるじに、恭しく頭を下げ、笑みを浮かべた。

「確か今日でしたよね、軍部がアドラル山脈に派兵する日は。
 手遅れになるかもしれない可哀想な方達がきっと首を長くして待っていますよ」


「おはよう、キース。すぐ行くよ。たくさんの人命がかかってるんだ、こんな時に恩売っとかなきゃな」


 若い外見とは裏腹に、ハーヴェイの声は静かで落ち着き、年季を経た知識人のような、いうなれば父や祖父などに近いような印象をだしていた。


 いそいそと残りのサンドイッチを口に放り込み、コップの中身を飲み干す。