眼下に賑わう大通りを見下ろしながら肌に当たる風を感じる。

 総合してもあまり良いとは言えない、不思議な夢見で熱くなった体温が一気に静まってゆく。

 この辺りでは珍しく“高い建造物”であるこの十階建ての最上階に構える住居。ハーヴェイ・ゼルギウスの私室。


 その窓から見えるこの街、首都であるローゼンフェルド市は今日も変わらず平和な一日を迎えているようだ。


 “ロマネスク”

 いつだったか俺、ハーヴェイが偶然手に入れた歴史書の中で見つけ、興味を抱いた写真。

 その説明文にあった“ローマ風”という意味のこの言葉。


 その歴史書によれば“ローマ”という、ある国のある時代の建築様式、だそうだ。

 その歴史書の建築史に紹介されている“中世ヨーロッパ”と区分されている時代の“ローマ”という栄えた国。

 ロマネスク建築と名付けられたそのローマの国の街並みを映したいくつかの写真を、歴史書で見て、興味を持った。

 新しいだけ、古いだけ。精密さ、豪華さ。そんなのに興味はない。ただ、古さの中に哀愁漂う、不思議と落ち着く街並み、という光景が気に入ったんだ。


 数ある写真のほとんどがここ、十階の自室から映るローゼンフェルド市の街並みと雰囲気や作り、古めかしさ等、どことなく似ていた。


 偶然なのか否か、関係があるのか否か、色々考えたこともあったが、結局俺が惹かれたのは写真同様上から見下ろすこの風景だと気づき、考えるのを止めた。


 それに“中世ヨーロッパ”なる時代がいつの時代を指し、“ローマ”という国がいつどこに位置し、どんな文明でどんな文化でどんな風習を持っていたかなんて興味はない。

 だが、ただ写真で見た“ロマネスク”という雰囲気はなぜかとても気に入った。きっとそれだけだ。きっと。


 だからこの都市に来たとき心が躍(おど)った。