横たわる俺の体を暴れるように乱暴に叩き起こす。正確には、飛び起きた、だ。


──引きずられそうな闇の中から這い上がることができた。
 否、目が覚めたんだ。


 体中には大量の汗をかいていた。芯まで凍るような冷たさはもうない。

 夢の中で伸ばしたまま、上に向かっていた右の手のひらは、何かに縋(すが)るように開いたままだ。


 ここをいつものベッドだと気づき、安心した俺は全身を使って力一杯空気を吸い込む。

 何度も何度も吸っては吐きだす。胸が大きく上下するほど、呼吸は激しい。



──あの女は、誰だ……?


 伸ばした手で両目と額を覆い、背中から再びベッドに倒れこむ。そのまままぶたを閉じ、さっきまでの夢のことを思い起こす。


 淡い翡翠のような緑色の長い髪、簡単に手折(たお)れそうなほど華奢で、血の気のない色白の首……。

 そしてその首に掛かった、金色の細い鎖の先にある、大粒の青い宝石。


 それはどこまでも深い、深海のような。

 どこまでも澄んだ、蒼穹のような。


──不思議な青い石。そしてそれを持つ、不思議な翡翠の女。



「はぁ……」

 両手を広げてもまだ有り余るほど広い柔らかなベッド上。

 落ち着いてきた心と体と頭の中を静かに感じ、ようやく気怠そうに体を起こす。


 気が抜けたのか、大きな欠伸がでた。それにつられ、いつものように両腕を頭の上に伸ばし、全身を使ってゆっくり背伸びする。

 カーテンの隙間からは眩しい太陽の光が、今日も突き刺さるように俺の目を捉える。

 ハーヴェイは額、首筋、胸元、と汗を拭きながらベッドを出、のそのそと窓際まで歩いた。