君と竜が望んだ世界

 だが、ボーっと聞いていただけのハーヴェイに、まさか初日の最初の授業で、ロイは当てた。

 クラスの視線を独り占めした時、ようやく自分の名前が呼ばれたことを知った。

「ボケっとしてんじゃないぞ、ハーヴェイ。
早速だがちょうどいい、今は契約獣についてだ。契約の仕方を答えてみろ」

 どうやら“契約”に関する授業をしているようだった。

 しかも明日、実際に契約させるらしい。漠然と考えながら立ち上がった。


「“契約”は不慣れな者は主に術式陣を使います。
契約したい魔獣を陣に入れ、自分の術力を注ぎ込むように術式を紡ぎます。

魔獣が“契約”を受け入れたら完了、受け入れなかった場合は、力づくで勝つか諦めるか。二者択一。

“契約”が成功したら双方の関係は契約者と契約獣となり、契約者が契約獣に術力を与えることで、それを糧として契約獣は力を発揮、契約者のために動く。
 そうそう、強い魔獣と契約するには相応の術力を持った術士でないと契約は成立しない。そのうえ、危険が伴いやすいので、高望みはしすぎないこと。

こんなもんですか、ロイ先生」


 ゆっくりと説明を終え、席に着いた。


「あいかわらず簡単で分かりやすい教本みたいな答えだったよ」

「ハーヴェイ、と呼び捨てで」と最後に無邪気に微笑んで、指示された隅の窓側の空席に着いた。


 ハーヴェイがあてがわれた席に座っていると、左側の開いた窓からは涼しい風が入ってきた。

 残りわずかの授業だが、涼しい風を感じながら教科書開き、授業を進める懐かしいロイの声をきいていた。


 数年ぶりに、久しぶりに見たロイは、まだ軍人だった青年はいつの間にか落ち着きのある“大人”へ“教師”へと変わっていた。


 ぼーっとしながらロイの声を聞いていた。そう、聞いていた。
 
 あの時より成長し、質まで落ち着いた大人のロイの声を。