君と竜が望んだ世界

 だがぐったりとして膝を付く者、手を付く者腰を下ろす者がほとんどいない。回復済みだ。

 端から見ると半数以上が相当な深手を負っているように見えるのに、実際は隊のほとんどがピンピンしている。
 こんなこと初めてだ。

 あんな回復薬だって見たことも聞いたこともない。



「隊長は居られるか!?」

 大きな治癒術が必要な怪我人を看終わったのか、仮面の男が歩き回っていた。隊長を探している。

 大きなはっきりした声で指揮官を探す。

 その声から仮面の男の下に、若さを表した。対照的にその一挙一動、口調は不相応にも落ち着き払っていた。


 
 軍人らしくよく鍛えた体躯で、仮面の男を中心に集まる人だかりをかき分け、カナトールが歩み出た。

 静かにたたずむ男を目の前に、カナトールは踵(かかと)をそろえ背筋を伸ばして軍式の敬礼をした。他の部下たちもカナトールに倣ってシャンと背と襟を正し、ぴんと伸ばした手を額に当てた。


「私がこの『鋼狼対策部隊』隊長、軍部特務課、所属のカナトール・クレスウェル少尉です」

 戦いでいくらか乱れた軍服はカナトールの精悍さを存分に引き出していた。


「昨日より害獣と認定された魔獣『鋼狼』二十頭の殲滅の命を受け、出撃して参りました。
 ですが情報を圧倒的に上回る数に、情けなくも先ほどの有様でした」


 カナトールは先の戦いを思い出したかのように肩を落とした。
 一息入れ、ほんの少し、弛んだ顔を向けた。


「援護に来てくださり、我が隊を救っていただいた上、治癒術式まで施していただき、皆を代表しまして心より感謝申し上げます」


 仮面で顔を隠し、その正体にいささか疑問を持つも、敵意を微塵も感じず、カナトールは歓喜を溢れさせながら敬意と感謝を示した。


「そこまでかしこまる必要はない。軍本部から救援依頼を受けてきただけだ」

 感謝は受け取るものの、つんとした態度で済ましていた。