首都ローゼンフェルド市から北東に少し離れた所にある山の中腹。


目に入るはポツポツと生える木々と閑散とした土色の大地。

だが今日のそこには黒煙と共に、金属音と銃器の混ざる轟音が辺りに響き渡っていた。

猛る大きな体躯の獣は四足で群れをなし、対するのは剣や銃を構え、大砲を構える武装した隊員たち。

数人単位で散らばりながら、武装した軍人は、それらに遥かな劣勢を強いられていた。

単に気性の荒い大きな獣、等という可愛らしいモノなどではない。

硬く痩せた大地を容易に斬り裂く鋭利な爪と強固な牙は人を圧倒し、体内から練り出し、吹き散らす大火は人を恐怖させる。

鋼のように硬い表皮に覆われたその巨体を、近くで剣を振り下ろす者も、離れて銃弾や砲撃を放つ者も、誰も決定打といえる傷を与える事が出来ずにいた。


「ちくしょうっ、あいつらなんて動きの速さだ。やっと剣が届いたのに硬すぎだぜ!」

「はいっ。それに少尉、中・遠距離からの術式攻撃ですが、火力に打ち消されて太刀打ちできません。我が隊の術士を集めても数頭を抑えるで限界です……!」


焦りと怒りを顕(あら)わにしながら男は、草陰の指令エリアから戦場を眺めていた。

今戦っている軍人と獣との状況を見ながらますます苛立つ。


「……言われなくても見りゃわかるよ! 確かこの任務、鋼狼(こうろう)二十頭の殲滅、って情報だったよな?」

少し落ち着きはするものの、苦虫を噛むような表情で部下に問う。

「はい。……確かに辞令書にはそうありました」


「百頭以上はいるぞ、あれは……あんまりだ! 明らかに誤情報じゃねぇかっ、くそっ!」


態度は落ち着いているものの半ばわめき散らすような口調の上司を必死に沈める、伝令役の部下。


「落ち着いて下さい、隊長!」


「わかってらぁ、そんな事っ! っくしょう、生きてローゼンフェルド戻ったら三日三晩文句垂れてやる! おい、持ちこたえるよう伝えろ……何としても。一カ所に集まって防御を固めるよう伝達するんだ!」

「はいっ、では早速失礼します!」