二階までのエレベータから出、自室のシンプルさとは相反するような、豪華な階段でやはり同じく見栄のために飾りたてられた様な一階のエントランスフロアに降りる。


 そこには既に先ほどの男、キースが立って待っていた。


 濡羽色のコートを羽織った男が下りてきたのを確認すると、立派なドアを押し開けて送り出した。


「お気をつけていってらっしゃいませ、ハーヴェイ様。」


「わかってるよ。じゃあ、行ってくる」


 『様』と当たり前のように、恭しく呼ばれた、幼さを残す外見を持つも、威厳を放つ、不思議と年齢を感じさせない雰囲気のハーヴェイは、頭を下げるキースに見送られて建物をあとにした。



 石畳の道路に出たハーヴェイはは脚力に力を込め、その石畳を蹴って数階建ての建物の屋上まで一気に跳ぶ。

 そのまま一般人は気にも留(と)めない速さで周辺の屋根伝いに跳び、目的地へと駆ける。


──地を蹴り、空へ。滞空中・そして落下に向けて体に風を受けながら、説明の仕様がない奇妙な感覚を覚えた今朝の夢を思い出す。
 溜息を吐きながら着地、再び地を蹴って高く跳びかける。考えたところで今の俺に何なのかはわかるまい。
 頭を埋める青い石の、翡翠色を払拭し、街を低空から見下ろした。