崖上に戻ったアウルは小さく咳き込む。
 瘴気に刺激されたのか涙があふれる。
 その背を気遣わしげにサハナが擦る。

「大丈夫か?」

 手負いのドラゴンから眼を離さないまま心配げにサレンスが尋ねる。
 金の鱗をなかば溶かされ、くすんだ黄色となった魔物は今や湖上を飛んでいる。
 王水を洗い流して態勢を整える気だろう。

「すまない。君の動きが速すぎて対処が遅れた」

 ドラゴンと直接対決するアウルを冷気でサレンスは護っていたが、彼の動きが予想以上に速くて完全に瘴気を遮ることができなかったのだ。

「平気っすよ。あんたが謝ることないっす。それよりあいつ、逃げちまう」

 息を整えつつ、氷炎の民の青年に答えるアウル。

「さすがは森の民だ。後は任せろ。クラウン、用意はいいか?」

 彼の答えに安心したように頷きながら、サレンスはクラウンに声を掛ける。

「いつでもええで」
「よし」

 彼は地面に置かれていたサハナの弓矢を取り上げる。
 そして、しばらく矢じりを見つめていたかと思うと、手早く弓を張り矢を射った。
 矢は放物線を描き、ドラゴンの頭上を越え、湖面に落下する。

「はずれ?」

 妙な顔をしてアウルが言ったが、サレンスは気にした風はない。
 ただじっと湖面を見つめ、クラウンに命じる。

「クラウン、今だ」
「よっしゃ!」

 打てば響くようなクラウンの返事とともにサレンスが矢を落とした湖面、今やほぼドラゴンの真下に金色の稲光が走る。雷電の民であるクラウンが雷を呼んだのである。
 雷鳴が響く。

「耳をふさげっ!」

 サレンスが命じた瞬間だった。
 湖面が盛り上がる。
 凄まじい音とともに爆発が起こった。