「倒すのがドラゴンだけで済むのならよいが、下手をすれば世界そのものが吹っ飛ぶ。やらせるわけにはいかぬ。太陽の炎とは創世の炎でもあるのだ。そして創世の力とはまた滅びの力にも通じる。人の手には余る。伊達に禁忌ではないのだよ」

 憂い顔でそう告げる神に、レジィは納得したように一つ頷いた。

「そうか。だから、サレンス様は僕を遠ざけたんですね?」
「あれはお前を巻き込みたくなかったのだろう。危険だと言う認識はあるようだからな」

 彼は凍青のまなざしを真っ直ぐにレジィに向け、命じた。

「レジィ、いやレジアス、彼を止めよ」
「はい、<サレンス>様」

 反射的に素直に返事をしたレジィだったが、ふいに自分の白銀の髪を掻き毟る。

「ああっ! でも、どうやって? あのサレンス様はああ見えてけっこう頑固ですよ。禁忌だからって言うくらいじゃ聞かないと思います。でも、<サレンス>様のことは話せないし」

 一人焦りまくるレジィ。
<器>の魂は<サレンス>の一部より創られている。神であった己を思い出せば<サレンス>の元に還ることになる。それは人としての死を意味した。
 ゆえにサレンスには己が氷炎の神の<器>であることは伏せられており、当然、レジィの<導き手>としての役割を告げるわけにもいかない。
 だが、氷炎の神はあっさりと告げた。

「だから、宝珠だ」
「宝珠?」
「私があれの性癖を知らないとでも思うのか」

<器>はもともと神自身の一部。本体である<サレンス>に彼のことが手に取るようにわかるのは当然のことだった。

「ああ、もう一人が来たようだな」

 すっと凍青の瞳を細める。

「もう一人?」

 何もないはずの漆黒の空間から金の髪の少年がまろびでる。
 レジィよりもかなり年上、十代半ばくらいだろうか。
 戸惑いながらも顔を上げた彼の瞳は、鮮やかな翠だった。