不意に話をふられたアウルが驚いたように漆黒の瞳を見開く。彼の意識の大半はすでに焚き火の上で良い匂いを立てている鍋の中身に向けられていた。

「え? 俺? 俺はあんたの言うとおりにするよ。ベリルさんに言われているし」

 討伐に出発する直前、アウルは流浪の民の青年ベリルに忠告を受けていた。
 まだ青年と言うには年若いアウルは、同じ剣を使うものとして経験を積んでいる彼を尊敬していた。

「なるほど。ベリル効果は絶大だな」

 サレンスの妙な言葉使いにアウルが首を傾げる。

「はぁ?」
「いや、こっちの話だ」

 サレンスは今度は黒髪の少女に視線を向ける。

「サハナは?」

 銀髪の青年に真正面から見つめられて、サハナは頬を紅潮させ、焚き火から差し込む光に琥珀の輝きを宿した黒の瞳でうっとりとサレンスを見上げる。
 森の民の少女はいくら聡明とはいえ、まだ十五歳にしかならない。いまだ恋に恋する乙女の域を出てはいなかった。
 
「わたしもサレンスさんの言うとおりに」
「わかった。後で作戦を説明しよう。細かいところを詰めないとな」

 満足げにサレンスは頷いた。


 野菜と干し肉を煮込んだスープと硬いパンだけの朝食兼昼食を始める。
 大した材料があるわけではなかったが、意外に美味しく出来上がっている。
 森の民であるサハナと一年の大半を行商をして過ごしているクラウンは、さすがに野外での料理も手馴れたものだった。 
 若く健康な食欲の持ち主であるアウルは三度目のお代わりをして、サハナにお玉で窘められていた。

「痛いな、サハナ。まだあるだろう」
「アウル、恥ずかしい真似をしないの。サレンスさん、今日はお代わりしてないですよね?」
「私はかまわなくていいよ。こんなときにそれだけ食べられるのなら頼もしいじゃないか」
「ほら、見ろ」
「もうっ! 子どもなんだから」

 唇を尖らせるサハナにクラウンが微笑む。

「ほんま仲ええなあ」
「だれがだ」
「だれがよ」

 二人の台詞が重なった。