午前中の診療が一段落し、昼食が運ばれてきた頃、ようやくグレードは隣の控え室にいるはずのレジィを思い出した。それほどまでに忙殺されていたのだ。

 運びこまれてくる傷病人はやはり酷い火傷を負ったものが多く、黒く壊死した組織を切除するのに今朝サレンスから贈られたナイフは早速威力を発揮したが、いくら氷炎の民の炎で鍛えたものであっても、やはり重ねて使っているうちに刃先が鈍ってくる。研ぎに出さないと午後は使えないようだった。

 隣の控え室につづく扉を開けると、少年は先刻の姿勢のまま寝台に横たわっていた。ちょっと見にはよく眠っているようにも見える。
 しかし。

「あっ!」

 小さな叫び声を上げてグレードはレジィに駆け寄る。

「どうした?」

 グレードの叫びに気づいてバジルが後に続く。
 横たわる小さな少年は、ほとんど息をしていない。
 心臓の鼓動もごく僅か。
 体は冷え切り、血の気を失った頬は今は白いと言うか青白い。
 グレードたちが癒しの民でなかったら、死んでいるかと思うほど。

「寝てる、と言うかこれって仮死状態じゃねぇ?」

 昨日の朝グレードが一瞬垣間見たレジィの状態と同じと言えば同じだった。
 しかし、今はそれ以上にわかることがある。

「ええ、でも、それだけじゃないです」
「そうだな」

 ぐったりとした体には今やその闊達な魂が存在していない。
 いくら蘇生術を施したところで肝心の魂が無くては起きるわけがない。
 深々とため息をつくグレードの側でバジルが混ぜっ返す。

「これが噂の幽体離脱?」
「茶化さないで下さい」

 バジルを諫めながらも、覚醒の兆しのない少年に語りかける。

「君、どこ行ったんだ?」
 
 愚問である。
 レジィはちゃんとサレンスの下に行くと言い残していたのだ。
 体だけ診てくれてればいいとも。

「サレンス様のとこってわけだよな」

 それが微妙に違うことはいくら彼らでもわかることではなかった。