診療所に戻ると雪狼のセツキを裏庭において、控え室にレジィを連れて入る。
 診察室に続いたそこは仮眠もできるようにと小さな寝台も一つ置かれている。
 何も言われずともレジィはそこにちょこんと腰掛けた。

「オレたちは診察に入るけど、とりあえず君はそこにいて。何か用があったら声を掛けてかまわないから」

 グレードがレジィにそう告げると、少年は今度はしっかり反応するどころが、とんでもないことは言い放った。

「僕のことはだいじょうぶです。すぐにサレンス様を追いかけますから」
「え、ちょっと待て。危ないからって、オレ、君を頼まれたんだよ」

 慌て気味にレジィを言い含めようとしたグレードだか、少年は落ち着いた態度のままわけのわからないことを言い出した。

「はい、ですから、あなたは僕の体だけ診てくれてればいいです」

 これにはさすがのバジルも首をひねる。

「はあ? 何言ってんだ?」

 彼のいつもの人を食ったような態度に気をそがれる風もなく、レジィは言葉を重ねる。

「僕は<導き手>なんです。サレンス様は知らないですけど」
「と言われても」

 グレードたちにとっては初めて聞く単語。
 しかし、少年はそれをきちんと説明しようとはしなかった。

「とにかく、僕はあの人の側にいないといけないんです」
「あー、レジィ君?」

 バジルがなだめるように声を掛けるが、レジィはさらなる爆弾発言をした。

「ですので、僕はふて寝しますっ!」
「えっ!」
「ふて寝って? まじ?」

 あまりの内容に当然ごとく驚く癒しの民、二人。

「絶対に起こさないで下さい」

 きっぱりと言い切ったレジィの青い瞳には、なぜか決意の色が浮かんでいた。
 そのまま寝台にころりと横になる。

「えっ! ちょっと?」
「って、ほんとに寝てる。はえぇ、さすが子ども」

 バジルの妙な感嘆を他所に、すでに氷炎の民の少年は健やかな寝息を立てて眠りに就いてた。
 グレードは安堵にも似たため息を漏らしながら、眠るレジィを毛布に包みこんだ。