「おはようございます、サレンスさん」

 明るい少女の声が銀髪の青年にかけられるが、もう一人の森の民はそっぽを向いている。それに僅かに眉根を寄せながらサレンスは挨拶を返す。

「おはよう、サハナ。今日も綺麗だね」
「いやん、綺麗だなんて、サレンスさんの方がお綺麗です」
「そんなことはないよ。それにその髪飾りよく似合っている。さすがは幼馴染殿のお見立てだ」

 幼馴染であるアウルをも褒められてサハナは、さらに頬を紅潮させる。
 当の本人は幼馴染殿という言葉にぴくりと反応するが、やはりサレンスに顔を向けようとはしなかった。今日は彼を無視することに決めたらしい。
 しかし。

「ほんまによう似合うのを選びはったなあ」

 感心したように言うクラウンにアウルは笑顔を全開にする。

「ほんとですか。でも、それはクラウンさんの品物が良いからです」

 現金なものである。アウルの隣で森の民の少女は、一瞬、がっかりしたように眼を伏せる。

「ところであんさんは、つけてくれへんの?」
「そうですよ、つけていればいいのに」
「ああ、ここにあるよ」

 女性陣に責められてサレンスは首にかかった革紐を手繰り寄せ、胸元から小さな袋を引っ張り出す。

「失くさないように、だそうだ」

 柔らかな布を縫い合わせたそれは、どうやらレジィ製らしい。

「ま、ええやろ。それでも身に着けていることになるんやから」

 どことなく投げやりにクラウンが言い放つ。
 
「不満そうだな」

 サレンスはクラウンとサハナを見渡して言う。

「当たり前や」
「当たり前です」

 二人の少女の声が重なる。
 しかし、森の民の若者はいまだそっぽを向いたままだった。