「せや、あんさんもそこのお嬢はんにひとつ買うてやらんか?」
「え? サハナにか?」

 アウルの漆黒の眼がサハナに向く。

「わたしはいいよっ!」

 ぶんぶんと顔を横に振り、片手を顔の前で振るが、いつのまにやら彼女の後ろに回り込んだクラウンが言う。

「綺麗な黒髪や。どんな色でも映えるで」

 いつでもどこでも商売を忘れないクラウンであった。
 彼女らの様子を眺めながら、サレンスがぼそりとつぶやく。

「さすが、老か、っつ、レジィ、足を踏むな」

 見下ろせば、レジィの柔らかな青い瞳が厳しい色を湛えている。

「あれ、おかしいな。なぜ僕の足の下にサレンス様の足が」
「レジィ、もう少し、主人を大事にしろ」
「僕は大事にしてます」

 レジィはサレンスの服を引っ張り、爪先立ちをして彼を小さく手招く。

「何だ?」

 少年の意を悟って、サレンスが床に片膝をつくと、少年が耳打ちをする態勢になる。側から見ると何とも微笑ましい光景だ。
 しかし、その内容はと言うと微笑ましいどころではなかった。

「ダメですよ、サレンス様。老獪なとか言っちゃ。女の子と仲良くしたいとか言ってるくせに詰めが甘いんだから」

 サレンスはレジィに向き直り、少年をしみじみと見つめる。

「お前、ほんとうに10歳か?」
「当たり前でしょう。今更、何言ってるんですか」

 氷炎の民レジィ。10歳。
 ふわふわの白銀の髪。
 きらきらと輝く大きな瞳は柔らかな青。
 まろやかな線を描く頬はあくまで愛らしい。
 ある意味、将来がすえ恐ろしい子どもであった。