視線の先には艶やかな黒髪をひとつに束ねた美しい少女と、その少女よりは優に頭ひとつ分は高い若者。
 二十に手が届くか届かないかだろうか、体つきはよく鍛え上げられたと思しくたくましいが、端正な顔立ちには幼さが残る。
 サレンスは少女のほうには見覚えがあった。

「ああ、森の民の、サハナさんだったね」

 柔らかな笑顔にサハナはたちまち頬を紅潮させる。

「覚えていてくださったんですね」
「君のように可愛いお嬢さんを忘れるわけがないよ」
「嬉しいです。あっ、サハナと呼んでください。あの、同じ隊になれて光栄です」
「こちらこそよろしく頼むよ。で、彼が君の自慢の幼馴染か?」

 サレンスの蒼い双眸が、サハナの隣の茶色かかった黒髪の青年に向けられるが、彼はどこか不機嫌な顔つきをしてサレンスと眼を合わせようとはしない。

「自慢だなんて。アウルは体は大きいけど、まだまだ子どもで」

 アウルのそんな態度に気づかないままサハナは、彼の大きな背を無理やり押すようにしてお辞儀をさせようとして抵抗に遭う。

「なに、するんだっ!」
「もう、ちゃんとしてよ」

 どこかで見たような光景であったが、サレンスは笑顔を崩さない。

「<森の民>一の剣の腕だと聞いている。頼りにしているよ」

 森の民。
 王国の辺境にある深い森。
 そこを故郷とする彼らは、主に傭兵として身を立てている。
 魔法も使わなくもないが、主に剣を得意とする彼らの中で突出しているとすれば、かなりの腕前であることは容易に推察できる。