王座に身を落ち着けた国王は、広間のざわめきが収まるのを待って口を開いた。
 しかし、老いのためか、掠れた声には声量がなく、彼らには届かない。

「国王陛下は臣民の安寧をお望みである。力を尽く……」

 国王の代弁をしようとした宰相の言葉を遮るようにして、白くまばゆい閃光があたりを駆け抜ける。
 一瞬後、轟音が鳴り響く。
 広間が振動する。
 いや、王宮そのものが震えた。

 女官のものだろうか、悲鳴が木霊する。
 ごく近くに雷が落ちたのだろう。
 やがて、ばらばらと屋根に打ちつける激しい雨音が聞こえてくる。

 雹が入り混じっているのだろうと予想させる音の大きさだ。
 壇上で宰相が何事か続けるが、激しい雨音と鳴り続ける雷鳴に阻まれて、声が届かない。

 と、老いた王が錫杖に縋って、王座から立ち上がった。
 広間の戦士たち、一人一人の顔を確認するかのように翠の瞳が静かに見回すと、彼は腰を折り、深々と頭を下げた。
 そこここで息を飲む音が響いた。

 どこか物慣れぬぎごちない所作でもあった。
 しかし、人に頭を下げることなどまったく考えたことすらないであろう高貴な身分のものが、己にできうる最大の礼を尽くしたのである。

 驚かぬわけがない。

 言葉もなく見守る戦士たちの前で、国王の頭上の色硝子から差し込む稲光が、錫杖にはめこまれた紅い宝珠を輝かせた。