衛兵を引き連れ、壇上に姿を表した中年の男が広間に整列させられた戦士たちに謁見の儀の開会を告げる。
 ファンタジア宰相であり公爵だと名乗った小太りの男は、仰々しく長々しい言葉でファンタジアとその王を寿ぐ。此度の災難、ドラゴン来襲については軽く触れるのみ。

 定まった式次第を踏んでいるのだろうが、召集されただけの彼らには馴染みがなく、無駄な時間ばかりかかる印象は否めない。広間がざわめきがちになり、野次まで飛ぶ。

「いつまでぐたぐたしてやがるっ!」
「早くしろっ!」

 宰相は苦虫を噛み潰したような顔になり、彼らを睥睨する。

「静粛に」

 近衛兵が一喝するが、ざわめきは治まらない。
 壇上の宰相はひとつ息を吸い込むと、ついに式次第をすっ飛ばして告げた。

「国王陛下の御来座である。控えよ」

 言葉と同時に壇上の右手の緞帳が引かれる。
 ファンタジア国王が姿を現した。
 一瞬、広間に水を打ったような静けさが訪れる。

「あれが国王?」

 思わずグレードがつぶやく。
 両脇を近習のものに支えられように姿を現したファンタジア国王は、煌く宝石を縫い付け、毛皮の縁取りのある豪華な衣装に身を包まれていても、老いさらばえやせ衰えた老人にしか見えなかった。

 髪は艶のない白髪。
 翠の瞳だけがやけに鮮やかだが、しみが浮き、皺深い顔には生気がない。
 骨の浮いた腕は細かに震え、それが縋るように持つ錫杖の柄頭にはめこまれた大きな紅玉が、まるで血のような色を放っていた。

 ふたたびざわめきが広がる。

「国王って、即位して間もなかったんじゃないんですか?」
「ああ、まだ若いはずだよな」

 バジルは首を傾げ、続ける。

「変装とか?」

 グレードは横目でバジルを睨む。他の誰でもない彼らは<癒しの民>だ。老いが本物であるかどうかなど、容易に見分けがつく。

「バジルさん、馬鹿もそこまでくるといっそ尊敬したくなります」
「おおっ、尊敬、いい言葉だ」
「殴っていいですか?」

 軽口をかわす彼らの間で、レジィがぽつりとつぶやいた。

「同じだ」
「え?」

 グレードが聞きとがめるが、少年は静かに首を振る。

「なんでもないです」