「彼は私の兄なの」
「兄?」

 意外な言葉にレジィは青い瞳を瞠った。
 兄妹にしてはいくら何でも年が離れすぎて見える。
 しかし、レジィをまっすぐに見つめる少女の翠の瞳は揺らがなかった。
 とても嘘をついているようにも見えない。

「そう実の兄。5つしか違わない。でも、そう見えないでしょう?」
「えーと、はやく年を取る一族とか?」

 実際の年齢と見かけの年齢が違う種族があることは、レジィは今朝方、学んだばかりである。
 けれど、少女は首を横に振った。

「ううん、逆。どっちかというと私たち、王族の寿命は本来長い方なのよ。成長も速くはないみたい。だから、あれのせいなの」
「あれ?」
「陛下が右手に持っている錫杖に嵌められた宝珠よ。ファンタジアを繁栄に導く守護石。王家の象徴でもある、あれは魔法の要石でもあるのよ。王宮付きの魔法使いの力を合わせるための要の石。王宮をドラゴンから護っている障壁はあの宝珠が生み出している。でも、そのためには代償が必要なの。王族の命が。お兄様は珠に命を吸い取られ続けているの」
「そんな……」
「建国の時代にこの地から掘り出されたとき、あの珠は無色透明だったの。けれど、王国を守護する度に王の命を啜り、やがてあんな色に変わったの、血の色に」

 内容の苛烈さに反して少女の口調は、あくまで唄うように淀みがなく滑らかだ。
 翠の瞳に落ちた翳りがあらわすのは、あきらめなのか。

「お兄様が倒れたら次は私。王族はあの珠のための生け贄なの」
「それじゃ、ドラゴンをはやく倒さないと」
「そうね」

 気のない返事にレジィは首を傾げる。

「それだけじゃダメなんですか?」
「ドラゴンを倒してもいずれまた何かあれば繰り返すことになるわ。私たちはあの珠に呪われているの」
「どうして、そのことを僕に?」
「なぜ? あなた、変な子ね」
「え?」

 にっこりと少女が笑う。
 と、不意に目の前を真っ白な光が駆け抜ける。
 ついで、耳をつんざく轟音が王宮を震わせた。