レジィが綴れ織の合わせ目から見たのは、謁見の間だった。
 広間には多くの人間が控え、そこにはここ数日のうちに顔見知りになったドラゴン討伐の戦士たちの顔すら見える。
 しかし、レジィを驚かせたのは、遠目にしか見るをこと許されぬはずの王の姿がすぐそこに見えたことだった。

(ここって、ひょっとして。それにこの子)

 この豪華すぎる小部屋は、王の控え室なのだろう。
 そしてそこに出入りを易々と許される、この華やかな装いの少女は王の親族、王女あるいは王孫なのか。

「ね、いくつに見える、彼?」

 少女がレジィを振り向き、唐突に尋ねる。

「え?」

 広間に集う戦士たちに何事か告げる国王に威厳は感じられない。
 煌く宝石が色を添える豪奢な衣装に身を包んでいても、痛々しいまでの老いが隠しきれないのだ。
 しみが浮き、たるんだ生気のない灰色の皮膚。
 やせ細った体が衣装の中で泳いでいる。
 細かに震える血の気のない細い腕。
 それがすがるように持つ錫杖の柄頭にはめこまれた大きな紅玉が、まるで血のような色を放っていた。

「いくつって、うーんと、五十、六十くらい?」

 氷炎の民を束ねる長老会のごく元気な老人たちを念頭に答える。ファンタジア国王は彼らよりもずっと年を取っているように見えるが、あまりずばりと答えるのも憚られた。
 しかし、少女はそのレジィの気遣いに気づいたようだった。

「気を使わなくてもいいのに」
「そう言われても」

 レジィの律儀な返答にくすりと少女は笑んだ。酷くはかなげな笑みだった。ただ鮮やかな翠の瞳に翳りが落ちる。