人には様々な事情がある。
だから、それをむやみやたらに聞くのはいけないとは思うけれど…。
ミチルくんをそこまでにさせてしまったお姉さんって、一体どんな人なのかな、なんて考えてしまう。
すると、何も喋らなくなったあたしを見兼ねてか、ミチルくんは突然話し始めた。
「別に女がダメって訳じゃねぇんだ。ただ、触られるのがムリってだけで。」
再び背中を向けられてしまったから、ミチルくんが今どんな顔してるのかはわからない。
でもその口調はいつもとは違い、とても柔らかく感じる。
「だから、別に話すくらいなら余裕だし。」
「……、」
「それに女は大好物。」
だからこそ、ミチルくんがどんな思いで今までいたのかと思うと、胸の奥がぎゅっと痛くなった。
そして、ミチルくんは続ける。
「…西から聞いたと思うけど。」
「え?」
「俺、親両方いねーんだ。」
『エースの家、ちょっと複雑でね。両親が居ないんだ。』
あ、そっか…。
言われてみれば、確かに西くんはそう言っていた。
静かな裏庭で、あたしはミチルくんの言葉を待つ。
いつもいつもヒナちゃんたちが騒いでいた彼と、こうして二人で居るなんて不思議な感覚だ。
しかも、相手はあたしが最も苦手なタイプ。
絶対話すことなんてない、と思ってたのに。

