深想シンドローム



だけどミチルくんは頑なにあたしの申し出を断る。


「女に助けられるなんてダセぇ」とか

「借りを作んのは御免だ」とか

意味のわからないプライドが彼をそうさせるのか、とにかく何を言っても受け取ってくれないのだ。



「もう!いいから掛けるだけ掛けてて下さい!」

「だからいらねーつってんだろ!」

「だって、そのままじゃ風邪ひいちゃいますっ!」

「お前に上着借りんだったら風邪ひいた方がマシだ。」


と、こんな押し問答が続き。



業を煮やしたあたしは
ミチルくんの目の前に立ち塞がり

「このまま受け取ってくれないなら、あたし触りますよっ!」

それでもいいですか!?
と、手のひらを彼の顔に寄せ、最後の切り札を差し出した。


その途端、急に大人しくなったミチルくん。

下から突き上げるように睨まれるけれど、あたしは負けなかった。



そして、しばらく続いた睨み合いの後。



はぁ、とドでかい溜め息と共に

「…わぁーったよ。」

ようやくミチルくんはあたしの上着を芝生から拾い上げ、受け取ってくれた。


と言っても、あたしの上着じゃミチルくんの肩幅には全然足りなくて。

だけど、それでも少しは風を防げるはず。



嫌々あたしの上着を掛けるミチルくんの顔は

ふてくされたような、でもちょっと照れてるような。


それが、何だか不思議と可愛らしく見えた。