時間ギリギリと、慌てて図書室に飛び込んだ真司を待っていたのは、担任でもなければ学年主任でもなかった。

朝日の中に見える小さくて猫背な背中。
だだっ広い図書室に一人座っていたのは、
−間違いない、中井優太だ。

真司には、やっと昨日からの話の流れが見えたようだった。

やっぱりこいつがイジメのことをチクったに違いない。
そして担任が来て、一緒に謝りましょう、と言う訳か。

このまま逃げ帰るか?いや、それは得策ではないな。
仕方ない、こいつに確認するしかないか。

そう観念し、真司がゆっくりと背後から近付いてみると、優太はどうやらうたたねをしているらしい。

机の上を見ると、見覚えのある青い表紙の本があった。

昔優太に薦められてハマったファンタジー。
王位や巫女を巡る冒険に、当時真司も優太も熱く語り合っていた。

−俺なんて、続編勝手に書いてたりしてたんだよな…

「ま、担任が来るまでの暇潰しだな。逃げるのも俺らしくないし」

優太も知らない、少し恥ずかしい思い出を懐かしがりながら、真司も机の『アバランドの巫女』を手にとり、読み始めた。