とりあえずアバランドへの旅に合意した優太と真司は、ハインの手配した馬車で移動していた。これから王都へ向かうのだという。


夕べの自己紹介の後、優太からこっそりこんな提案があった。

あまり先の話をしないこと。ハインは悪者ではないが、怪しまれて命に危険を及ぼすことはしたくない。

いずれ二人が帰る方法を探さなくてはいけない。それはハインが知っているのか?

どちらにせよ、ハインの役目を完了させるために二人は全力をつくすこと。

優太は最後に、自分が知っているアバランドと違う点がいくつかあると言っていた。
それが何を意味するのかはわからないが。


おどおどしながらも珍しく自分の意見を言った優太に、真司は驚いた。いつもは人の顔色を伺うだけのイライラするヤツなのに。


−まあ、泣かれて俺がイライラするよりはいいか。

そう思って優太の方を見ると、ハインと何やら楽しそうにに話している。

真司はそんな二人を見ながら、自分でもしっかりと本の粗筋を思い起こすことにした。


たしか勇者には2人の仲間がいた。

一人は炎をあやつる魔道士。

もう一人は風のように素早く獲物を狩るハンター。

二人のサポートがあって始めて、勇者は目的を達成できたはず。

真司はふと不安になった。
…俺たちがそんな能力、持ってるわけないじゃん…

本の世界、しかも大好きだった本を体験している。確かに今の真司にとっても凄くワクワクできる出来事だ。
ただその反面、有り得ないことという想いが自分にブレーキをかけているのだろうか。優太のように素直にこの世界に順応できない自分を感じていた。


もう一度、優太を見る。
アイツの持っているあの杖はお飾りなのか、それとも…

そして自分の腰に刺してあった短剣を取り出し、じっと見つめていた。