野良ライオンと文系女の猛獣使い

形容するなら、全力投球を受け止めたキャッチャーミットのような。
騒々しい駅に響いたのは、そういう、ある意味“小気味良い”音だった。

勿論、そんな音を発てる程の勢いで殴られたらただじゃ済まない。
当然痛いだろうし、骨折とか出血、最悪死ぬかもしれない。

けどまあ、痛いのは嫌だけど覚悟みたいなのはしてたのよ。
痛いだろーなー、って。


「え?」


だからこれは、殴られたことに対する疑問であるハズがない。
もっと別の、アタシの想像もしなかったことが起きたってこと。
で、それが何かっていうと……。


「おうブラザー。暴力はいかんよ、暴力は」

「なんっ、」


クソガキの拳を受け止めて、やたら陽気な声を上げた人物の登場だった。


「アンタ……」


肩まで届くかというくらい伸ばした金髪と、瞳を覆う黒いサングラス。
派手なシャツを第2ボタンまで開いて晒した胸元に、シルバーのネックレスを揺らす、長身の男。

姿を確認して、確信する。
間違いなく、ここ数日アタシを悩ませてくれた元凶だと。


つまり、金髪バカ(アタシ命名)の登場に、アタシは少なからず動揺したってことだ。
だってさ、このタイミングでしゃしゃり出てくるなんて思わないじゃない?

で、その動揺はアタシだけじゃなかったらしい。


「なんだ、お前!?」


拳を止められたまま、クソガキが叫ぶ。
けどそれは、アタシにしたような威嚇とは違う。思いもよらない展開に、単に恐慌しただけだ。
だって、声が上擦ってたもん。


「なんだって言われてもねぇ。通りすがりのイケメソと言うしかないにゃ」


相変わらずのふざけた口調で、金髪はクソガキの追求をかわす。
その間にクソガキは拳を動かそうとする。けど、思いの外、金髪の握力が強いのか、アイツの手を振りほどけない。

というか“イケメソ”言うな。
せめてイケメンと言え。