野良ライオンと文系女の猛獣使い

「シカトこいてんじゃねえぞ!!」


ほらきた。

別にそんな大声出さなくても聴こえてます。
威嚇のつもりならカッコ悪いわよ? だって別に怖くないし。
っていうか、腕は痛い。放してよね。


ほら、アンタのせいでお婆ちゃん怯えちゃってるじゃないの。
ごめんね、お婆ちゃん。


周りの人が助けてくれる様子は……、微妙ね。
見て見ぬふりって感じか。そりゃ厄介事には関わりたくないでしょうしね。

でもチラチラ見てる辺り気付いてはいるんだから、一声上げれば助けてくれるかしら?
いや、私じゃなくてお婆ちゃんをさ。


「聴こえてたんなら、自分がしたことがどういう事かわかったでしょ? 面倒くさいし、痛いし、さっさと放せクソガキ」


いい加減、本当に面倒くさくなってきたので、わかるように言ってやる。
というか、開き直ってやる。

こかされて怒るくらいなら、最初から他人にするなって話しなのよ。

私? そりゃわざと転倒させられたら不快よ?
でもね、これは報復だからノーカン。オーケー?


「こ、の……、クソアマ!」


真っ赤になって興奮しちゃって、拳まで握っちゃったわよ、もう。
これは飛んでくるかな?

痛いのは御免だけど、とりあえず殴られておけば被害者面出来るわよね。
というか、この距離で殴られたら避けようもないし。

とかなんとか考えてたら、握った拳が振り上げられた。


顔は──、やだな。一応、女子だし。
というか、こんな人目につく場所で殴ったらアンタ簡単に捕まるって分かってる?


振り上げられた拳が、こっちに真っ直ぐ飛んでくる。

あ、これは顔だわ。なんて、妙に他人事のような気持ちでそれを見て、


(歯は、食い縛ったほうがいいんだっけ?)


最後まで他人事のような気持ちのまま、肉を打つ音が駅のホームに響いた。