野良ライオンと文系女の猛獣使い

振り返るまでもなく、さっきのガキだと理解する。
声のトーンから察するに、苛ついているみたいだ。


「なんですか?」


我ながら白々しいな。
限り無く棒読みに近いし。


「なんですか、じゃねぇ!! よくもやってくれやがったな、このアマ」


ああクソ。面倒くさいな。
知らないってしらばっくれれば、何とかならないかな?
人は多いけど、足を引っかけた決定的瞬間は見られてないだろうし。下手したら味方の方が多いでしょ、きっと。


「何の事ですか? 痛いのでその手、放してくれます?」

「しらばっくれんな、ちゃんと聴こえてんだよ!」


…………チッ。聴こえてやがったか。
ボソリと呟いただけだったのに、この雑踏の中、よく聞き取れたな。
頭は悪いクセに、耳だけは良いとみた。


とまあ、今回のアタシは口が悪いわよ?
苛ついてるからね。
この状況にも、それを作り出してしまった自分にも、このガキにも。


さて、どうしたものか。

これは完全に、わざとやったことがバレちゃってるし。
ここで大声でも上げれば、このガキを痴漢とかにでっち上げられるだろうけど……。
流石に冤罪にも程があるしねぇ。今、襟首掴まれてるけど。


見た感じ、身長はアタシより少し高いくらいか。
大きくはないな、気は大きいのかも知れないけど。

学生服着てるあたりは学校帰りか、これからか。今日は休日だから、部活か補修ね。
というか、しっかり教育しなさいよね。ホント、こういう手合いは面倒だわ。

と、『もし暴力沙汰になった時のための特徴確認』をしていたら、どうやら相手の気に障ったらしい。

より強く睨まれた。

ま、こいつからしたら無視されてるのとおんなじだもんねえ。