「我が前で醜き叫び声は不要」
突き刺さった剣が引き抜かれると同時に
黒い霧が噴き出し、その姿が風の中に立ち消える。
青年はジリジリと一歩、また一歩
後ずさる闇の住人ににじり寄るや
剣先を鋭くなぎ払った。
声を上げる暇さえ与えず
痛みを覚える瞬きほどさえの時も与えず
青年は瞬時にそれらの命を奪って行った。
「我が前でその存在は無用」
噴き出す漆黒の霧は風に吹かれ、夜の中へと消えていく。
赤い刀身の剣に
穢れを拭きとるかのように左手を這わせていくと
剣は元々の銀の色を取り戻していく。
完全に銀色に戻った剣を片手に
闇の中に佇む青年の背に
蒼く丸い月が寄り添うように立っていた。
「月(マザー)。満足かぃ?」
背に立つ月に向かって青年は言の葉を投げかけた。
それに答えるかのように、夜の闇が青白い光によって揺れる。
「そう、それはよかった」



